3Dプリンターによる構造物が安全で建築コードに準拠し、耐久性があり、想定される耐用年数の間、環境要因に対する耐性を維持できることについて、規制当局の信頼を得るにはどうすればよいでしょうか?


建物内の階段

2020年9月11日
著者: Howard D. Hopper(FPE、グローバル規制対応サービスマネージャー)

物理的な物体の3Dプリントは、もはや未来的な概念ではありません。 この技術は、家庭、商業、産業用途に幅広く使用されています。 3Dプリントは、世界各地の建築物の部材にも使用されています。 3Dプリントを使用して建築物がどのように建設されているかを見たことがないという方は、インターネットで3Dプリントによる建築物の動画を検索してみてください。

この新しいテクノロジーを全面的に採用するためには、規制当局を含む関係者は、3Dプリントで造られた構造物が安全で建築コードに準拠しており、耐久性があって、想定される耐用年数の間、雨風等の環境要因に対する耐性を維持できるという確信が必要です。 さらに、構造物の物理的特性に大きな影響を与える可能性のある3Dプリントの材料や製造プロセスの違いにも対応する必要があります。

課題への取組みをリードするUL

ULは、5年以上にわたり3Dプリントの安全性に関する研究を行っています。 従来の製造技術とは異なり、3Dプリントのプロセスでは、製品が印刷される方法に応じて特性や性能に大きな影響を与えるばらつきが生じることを突き止めました。 この研究は当初、プラスチック材料を対象として行われた経緯があり、結果的に2016年のUL Blue Cardプログラムの開発につながりました。

2017年には、ULは3Dプリントによる建築に関連する安全性、耐久性、建築コードへの適合性について研究を開始しました。 この研究が、UL 3401「Outline of Investigation for 3D Printed Building Construction」に記載されている、3Dプリントによる建築物の評価方法の基礎となりました。 この評価方法において、製造業者の3Dプリント機器、付加製造材料(AMM)および製造プロセスで、最初に試験したサンプルから特性が変化しない建築部材を一貫して製造できるかどうかを検証します。

UL 3401の策定にあたり、ULは建築監督当局と連携し、評価プログラムの範囲について意見を聴取しました。さらに、建築監督当局の懸念に対応するため、International Code Council(ICC)の主要な管轄委員会で2回にわたり協議が行われました。

建築コードへの準拠と承認に関する課題

建築業者は、3Dプリントによる建築物に適用される建築基準または住宅基準に準拠していることを証明し、管轄区域の建築基準当局の承認を得る必要があります。 現在の建築基準および住宅基準には、3Dプリントによる建築物に対する規定要件が盛り込まれていないため、建築業者と規制当局の両方にとって、建築コードへの準拠が課題となっています。 モルタルやセメントをベースにした3Dプリントによる造形物は、部材を形成せずに積層方式によりプリントされるため、モデルコードで参照されるコンクリートに関する規格ではカバーされていません。そのため、コンクリート構造に関するコード要件であっても、セメントベースの3Dプリント構造には直接適用できません。

3Dプリントによる建築物については、規定のコード要件が定められていないため、規制当局はコードに規定される代替材料および手法に基づいてプロジェクトごとに検討し、評価・認定を行う必要があります。 このアプローチでは、3Dプリントによる建築物がコード規定の意図に適合し、コードで定める品質、強度、有効性、耐火性、耐久性、および安全性の水準を備えていることが示されれば、当局が3Dプリントによる建築物を承認することができます。 UL 3401などの規格の試験および評価データを使用することは、3Dプリントによる建築物が同等のコードに準拠していることを規制当局が判断するための一つの方法として認められています。

UL 3401による評価

UL 3401は、積層造形または3Dプリントのプロセスを用いて製造されたパネル、壁、パーティション、床・天井、屋根、柱、および梁などの、建築構造物およびアセンブリの評価を対象としています。 UL 3401による評価では、3Dプリントによる建築部材が所定の建築コードに適合しているかを判断するのに必要な技術情報レポートを作成します。 また、コードで言及されている性能(試験)規格への適合性を証明します。

UL 3401による評価では、主要な製造要素が、最初に試験を行った3Dプリントサンプルと同等の特性をもつ構造物を、適切かつ一貫して製造していることを確認します。 評価の対象となる要素は以下の通りです。

  • 3Dプリント機器
  • 製造プロセス
  • 付加製造材料(AMM)
  • 品質管理手順
  • 製造記録

評価の対象となる特性は以下の通りです。

  • 機械的特性
  • 防火性能
  • 蒸気、空気、および水の遮断
  • 断熱性
  • 屋内空気環境
  • 環境曝露前後の耐久性、完全性、および性能

3Dプリントによる製造プロセスは、「Fabrication Process Description」レポートに記載され、「Report of Findings」の中で参照されます。

試験に関する課題

UL 723(表面燃焼特性)、UL 263(耐火性)、ASTM E331(防水性)、ASTM C1363(熱性能)など、建築コードで参照される規格への適合性を判断するためには、3Dプリントのサンプルの試験が必要です。

UL 3401には、建築コードで要求されている試験に加えて、3Dプリントによる構造物の耐久性に関する技術データを提供するために、環境曝露前後の材料特性および性能試験に関する要件が含まれています。 環境条件には、紫外線への曝露、浸水、および凍結融解サイクルが含まれます。

試験性能は製造における複数の要素によって変化し得るため、試験サンプルは、文書化した3Dプリント製造プロセスおよび対応する付加製造材料(AMM)を使用して準備されます。

評価レポート

UL 3401による評価では、設計者および規制当局が使用することを目的とした「Report of Findings(評価レポート)」が作成されます。 このレポートでは、対象となる建築部材の構造を示し、製造プロセス、製造に使用する3Dプリント機器および付加製造材料(AMM)を特定します。 また、レポートには、試験によって確立された定格、材料特性、および材料の性能特性も記載されます。 評価レポートは評価の依頼者に提供され、依頼者は認可手続きに必要な施工計画文書に当該レポートを含めることができます。

規制当局による認識

複数の建築関係者がICCのコード策定公聴会で証言したことにより、International Residential Code(IRC)の2021年版には3Dプリントによる建築物の建設に関するAppendix(付属文書)が含まれることになりました。 このAppendixでは、3Dプリント建築技術を用いて全体または一部を製造した建築物および構造物について、UL 3401に準拠した設計、施工、検査を行うことを要求しています。これらの要件が世界的に認知されたコードに規定されることで、建設業者および規制当局は、3Dプリント建築物の設計、製造、承認を行うための確固たる技術的根拠を得ることができます。

UL 3401認証と認証製品の検索

ULは、3Dプリント建築業界のお客様へより良いサービスを通じて、お客様のビジネスの成功に貢献できるよう努めてまいります。Mighty BuildingsがUL 3401の認証を受けた初の企業となったことを大変嬉しく思います。 3Dプリント建築物の認証情報については、ULオンライン認証ディレクトリProduct iQTMにアクセスし、CCN 「ULFQ」で検索してください。

3Dプリントによる建築物の評価に関するご質問については、Howard Hopper(Howard.D.Hopper@ul.com)またはBob James(Robert.J.James@ul.com)までお問い合わせください。

Original English Site: https://www.ul.com/news/build-trust-3d-manufactured-buildings-ul-3401