高層建築における外壁の壊滅的火災
高層建築の外壁が関係する大火災がきっかけとなり、建物外装の急速な延焼拡大をくい止める最善の方法について、議論が活発化しています。これらの火災は世界的な課題であり、解決策を見出すことが急務となっています。
Feature Story
2020年2月24日
筆者:ドウェイン・E・スローン(ビルディング&ライフセイフティ・テクノロジー部門テクニカルディレクター)
近年発生した高層建築の外壁火災をきっかけに、多種多様な建築材料で覆われた外壁の急速な延焼拡大をくい止める方法について、様々な意見が交わされ、議論が活発化してきました。本稿では、外壁の燃焼性の課題について理解を深め、解決に向けて前進するために、以下に示す取り組みについてご紹介します。
- この種の火災に関連した建物構造に影響を及ぼす要因の考察
- 外壁の評価に適していると誤解されることがある特定の火災試験に関する知見の提供
- 特定の地域・規格・規制に対応した試験を選択することの重要性の検討
本稿では、要求された試験方法に適合している外壁アセンブリを特定するために活用いただけるULの第三者認証アプローチについてもご紹介します。これらの情報は今後、同種の外壁火災の予防に役立つことが期待されます。
2019年10月に、待望の『グレンフェルタワーに関する調査:フェーズ1報告書』が発表されました。この調査は公開調査であり、2017年6月14日に発生したグレンフェルタワー火災を取り巻く状況を独立した立場から調査しています。グレンフェルタワーはロンドンのノースケンジントン地区にある24階建ての集合住宅で、調査報告書によると火災は4階で発生し、建物外壁へと広がりました。火はあっという間に建物外壁を伝って上方に燃え広がり、最終的にこの火災で72名の方が亡くなりました。グレンフェルタワーに関する調査報告書はこちらをご覧ください。
建物構造に関する考慮事項
現在の外壁構造に影響を与えている要因はいくつかあります。第一に、今日の建築はペースが速く低コストで施工しやすい設計が求められています。これに対応するため、市場には常に新しい材料が導入されています。新製品と既存製品との組み合わせにより、設計者や施工者にとって、外壁コンポーネントの選択肢はさらに広がります。選択した組み合わせが完全なアセンブリとして使用に適しているかどうかを判断するには、材料の組み合わせ、および施工方法を適切に評価する必要があります。火災試験では、必ずしも個々の材料を試験しただけでは、複数の材料を組み合わせて外壁システムを構成した場合の防火性能を高い信頼性で判断ができないことが実証されています。防火性能の正確な評価を行うには、完全なアセンブリを対象とした火災試験を行うことが求められます。
もう一つの課題は、熱性能、気密性、透過性、透水性など、建物エンベロープの性能に対する関心が高まっていることです。地域によっては、コードや規制によってこのことを推進しています。その結果、より高い熱性能を持つ断熱製品が登場し、エアバリア材や防湿材が多用されるようになりました。つまり、これらの新しい壁構造にも試験を行い、完全なユニットとして外壁の耐火要件に適合しているかどうかを評価することが要求されます。
このほかの建築構造の要因として、見た目は美しいものの、火災安全のコードや規制に準拠していることが証明されていない外装化粧材の使用が増加していることが挙げられます。特にグレンフェルタワーの悲劇が起きて以来、非難燃性の金属複合パネル構造に関連した課題に世界中から強い関心が寄せられています。この構造は汎用性が高く美観にも優れていますが、外壁火災試験において規格や規制の要件に適合する性能を有していないケースも多々見受けられます。
火災安全への包括的アプローチ
建築専門家、防火エキスパート、設計専門家の多くは、建物内で防火に対する包括的なアプローチを取ることが、最善の方法であると認識しています。これには、燃焼挙動性能(延焼を遅らせること)について評価済みの材料を選定することや、検知・警報、消火・区画化について検討することが含まれます。しかし、外壁火災において、どの火災試験または防火対策を適用すべきかについては、必ずしも明確に理解されているわけではありません。
例えば、建物内部にスプリンクラーで対策が施されている場合には、外壁の試験要件を緩和することを検討している地域もあります。ここで理解しておきたいのは、出火元が建物外でそこから発生した外壁火災の場合、建物内部のスプリンクラーシステムは建物の外面を保護するように設計されていないため、スプリンクラーがあったとしても、建物に火災や煙による深刻な被害が発生する可能性があるということです。
適切な火災試験の選択
もう一つ正しく理解しておきたいことは、UL 263(Standard for Fire Tests of Building Construction and Materials(ASTM E 119))に基づく大規模な火災試験は、耐火等級を定める評価において適用されますが、外壁アセンブリの火災成長の検証には不足があるという点です。この試験方法は、(壁もしくは水平アセンブリ、またはその両方を利用した)建物の区画間における延焼拡大の抑制、あるいは梁・柱などスチール製部材の保護に用いられる建物アセンブリの評価に有用です。しかし、グレンフェルタワーや以下に挙げる近年発生した高層火災などの重要な要因となった、外壁アセンブリの外側への延焼を評価することを目的としたものではありません。
- Monte Carlo Hotel, Las Vegas Nevada – 2008
- Mermoz Tower, France – 2012
- Lacrosse Building, Melbourne Australia – 2014
- Torch Tower, Dubai UAE – 2015
- Address Downtown Hotel, Dubai UAE – 2015
- Grenfell Tower, London England – 2017
- Torch Tower, Dubai UAE – 2017
NFPA 285高層建築物の火災試験などの各試験は、外壁システムの性能評価に特化して制定されています。これらの試験では、外壁システムにおける、建物内部の火災が外壁システム外側を伝って飛躍することを防ぐ性能を評価します。
世界各地の外壁試験の考察
試験で外壁アセンブリおよびパネルの火災伝播特性を測定
最も代表的な試験を確立することの重要性への認識から、世界には外壁試験の方法論に焦点を合わせた多様な規格グループがあります。幸いにも、外壁の難燃性の問題には真剣な取り組みがなされており、多くの管轄当局でコードおよび性能基準が更新または新設されています。ここでの課題は、国や地域によって異なる試験方法が実践されており、スコープがまったく同じではない場合や、同じ結果が得られない可能性があることです。製品やシステムが外壁構造の使用に適していることを確認するためには、製品やシステムの評価に用いられている方法を正しく理解することが重要です。
ここにあげる大規模な外壁耐火試験の主だった方法は、その多くがすでにコードおよび規制に組み込まれています。例えば、国際建築基準(IBC)およびNFPA 5000では、Type I、II、III、IVの高さ40フィート(約12メートル)以上の建物および外壁に発泡プラスチックを採用した建物について、NFPA 285を参照しています。表1は、試験方法の一部およびそれらが一般的に実施されている国を示しています。開発中の方法もあることから、この表1はすべての試験方法を網羅したものではありません。
表1 – 外壁の試験方法
(クリックで拡大図がご覧いただけます)
認証のアプローチ
かつては、不燃性材料を使用する壁システムの承認には、建築基準法の要件や、各コンポーネントの試験報告書、エンジニアリング解析、メーカーの取扱説明書など、かなり複雑なレビューが必要とされてきました。可燃性断熱材、可燃性防水材、外装化粧材の需要増加や可用性の向上に加えて、高層建築における壊滅的な外壁火災が複数発生していることから、防火には、壁アセンブリシステムの確固たる防火試験と認証プログラムが要求されており、設置されたシステムが最新のコード規則や規格に準拠していることが求められます。
『グレンフェルタワーに関する調査:フェーズ1報告書』には、以下の記述があります。「建物の外壁に可燃性レインスクリーン・クラッドパネルや断熱材が広く使用されていることや、外壁に新しい種類の建材が導入されたことで、同様の火災のリスクが増大した可能性がありますが、火災の安全性に関する規制の改善、およびフェーズ2で特に注目される材料の試験と認証の要件により、将来的にはそのリスクを軽減することができるはずです」
ULでは、レビュープロセスを簡素化し、NFPA 285への適合性を達成するための認証アプローチを展開し、壁システム全体の設計図やシステムの一部として各コンポーネントがどのように評価されているかを示す公開データベースを提供しています。
このアプローチは、規格への適合性を判断する最新の方法が無償で使いやすく提供されており、メーカー・建築家・設計者・規格担当者の皆様のニーズに対応しています。UL Online Product iQ Certificationに表示される設計図は規格に準拠したアセンブリの正確な詳細が反映されており、設計者・防火のエキスパート・管轄当局の皆様にいつでもご利用いただけるオンラインリソースです。
ULにて外壁システムのNFPA 285認証を取得するには、メーカーの取扱説明書に記載されているとおりの構造詳細を使用して試験を行う必要があります。システムが規格要件に準拠している場合、外壁システムの図面および重要構造部品の説明がUL認証情報に記載されます。試験を行ったシステムに使用された各重要部品も個別に識別され、ULマークが付与されます。認証を取得したすべての壁システムおよびコンポーネントは、現在Product iQTMのオンラインデータベースで公開されており、
Exterior Wall Systems (FWFO)、Exterior Wall System Components(FWFX)のカテゴリーに分類されています。Product iQで公開されている壁システムのコンポーネントには、様々なタイプの断熱製品(発泡プラスチックなど)、防水材、エアバリア材、ラミネート材、被覆材、複合パネルなどがあります。
FWFO – Exterior Wall Systems
UL Online Product iQ Certification – Example of Compliant NFPA 285 Exterior Wall System
(クリックで拡大図がご覧いただけます)
アウトリーチ活動
ULはこの程、国際消防士協会(IAFF)と連携し、デモンストレーション・トレーニングの新作動画を制作しました。動画は本稿にあげた火災事象に関連する燃焼挙動について、消防士の教育をサポートし、NFPA 285の試験方法を分かりやすく伝えるものとなっています。動画はIAFF – UL Video Exterior Wallsよりご覧ください。
外壁での急速な延焼拡大に関する課題は、引き続き世界中で注目されています。ULでは影響を及ぼす要因の理解に努め、これらのアセンブリを評価するのに適切な試験方法および認証アプローチの把握にも注力します。これにより、皆様の火災安全のレベル向上につながるソリューションの提案へと前進できるものと確信しています。
外壁アセンブリの火災試験についてさらに情報をご希望の方は、コード・アンド・レギュラトリー・サービスチーム(ULRegulatoryServices@ul.com)までご連絡ください。
References
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NFPA 285. Standard Fire Test Method for Evaluation of Fire Propagation Characteristics of Exterior Wall Assemblies. NFPA, 2019
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White, N. and Delichatsios, M. Fire Hazards of Exterior Wall Assemblies Containing Combustible Components. Quincy, MA. The Fire Protection Research Foundation, 2014
Original English Site: https://www.ul.com/news/catastrophic-exterior-wall-fires-highrise-buildings
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